ジン、それは自由で緩い酒である。
てなわけで、その部分を突く様にしてそれこそ雨後の筍の如く色々な国でクラフトジンが産声を上げているのである。
ジン=イギリスという固定観念は端っから通用しない。そもそもジンという酒の発祥はイギリスではない。クラフトジンの誕生はイギリス・フランス・ドイツ・オランダ・イタリア・スペイン等々、西欧諸国に広がりを見せており、アメリカ・カナダ・日本も然る事ながら、ハードリカーで殆ど名前が出て来なかった NZ ・オーストラリアでも生産されるようになった。
ハードリカーの世界はグローバル化した大資本に集約され寡占化が進んでいる、同時に世界的に市場は拡大し、先進国を中心に市場の成熟も進んでいる。その反作用的な形で少量生産でも拘りを貫いたマニアックな商品展開でマーケットの間隙を縫って成功を狙うというムーヴメントが起きて、それがクラフト何某の類だと考えられる。


ワイン評論家として世界一有名な Robert Parker Jr. (ロバート・パーカー・ジュニア)が猿のラベルで有名なドイツMONKEY 47 Schwarzwald Dry Gin に対して100点に相当すると評価するという事態が発生、これがクラフトジンの勢いに加油する事になった模様である。(註1

~何しかインディーズのプロレスみたいやねぇ~

冒頭で自由で緩いと述べたが、EU による規定を見ると、その成立要件は…
農作物由来のエタノールにジュニパー=西洋杜松の風味を与えたもので、最低度数は37.5%。天然及び人工の香料を使用しジュニパーの香味が主体になる事。
ただ GIN を名乗るだけなら、スピリッツにジュニパーを漬け込む等して風味を付けただけでもおK なのである。
これが Distilled Gin=蒸留ジンなら、
96%以上に蒸留した農作物由来のアルコールを使用し、ジュニパーその他の香味植物を加えて再蒸留したもの。
ただし、同量のアルコールや、天然および人工の香料を加えても良い。ボトリング時のアルコール度数は37.5%以上
つまり実質ニュートラルスピリッツしかベースに使えず、スピリッツと西洋杜松等のボタニカルを共に蒸留を掛ける必要がある。
これが London Gin (ロンドン・ジン)になると、基本は蒸留ジンと一緒だが以下の規制が加わる。
ベースのスピリッツのメタノール含有率が 5g / 100L 以下、甘味料を添加する場合でも 0.1g / 1L 以下、水以外の添加は色素も含めて不可。


そして、上記以外の規定は無いという事は即ち、ベースとなるスピリッツと最低限ジュニパーさえあれば製造出来てしまうという事である。たったこれだけの規定しか存在せず、産地の厳格な規定がある訳でもなく、ジュニパー以外のボタニカルの種類や数も自由で、少ないもので6種程度、多いもので20数種類と幅がある。それこそ MONKEY 47 なんてその名の通り47種類使用なんていう極端な例もある。必須の西洋杜松以外ではアンジェリカ・オリスルート・コリアンダー・ジンジャー・カルダモン・リコリス・柑橘類のピールという所が定番ではある。

ベースのスピリッツは色々選べる。穀物由来・果実由来、他にはサトウキビ由来、芋類由来の様なでも全くお Kである。スピリッツ一つで味の特徴も変わるので、あえてニュートラルでないスピリッツをベースに選択している生産者も多い。
しかも、度数調整の際に水以外の物を使用する事さえ可能で、実際にワインや日本酒を使用して度数調整をしているケースもある。ウィスキーやブランデー等にはない自由さである。


嘗て、プロレスの中の格闘技的要素を取り出して「打・投・極」というコンセプトの下で純粋に追求しようとしたのがあの U.W.F. だというなら、その逆に何でもありというコンセプトで猥雑にして自由な世界を広げようとしたのが F.M.W. であったといえる。因みに、この両者何れもあの新間寿氏が絡んでいたのは草生えるが、1990年代を中心に一世を風靡した何でもあり的なインディーズプロレスを語るには F.M.W. は外せない。
ワイン・ウィスキー・ブランデー等では厳格な産地統制や規定・規制があってそれらを悉くクリアする事が必須条件になってしまうが、その逆を行く様に何でもありに近いというのがジンという酒なのである。




ここで、非常に自由なジン達を取り上げて行く。

expmgin8dorn01  expmgin9dorn01

Thompson Brothers Experimental Highland Gin
Batch 8 =左・Batch 9 =右 共に45.7度
スコットランドはハイランド地方でも北部にあるDornoch Castle(ドーノッホ城)の隣で Thompson Brothers が経営する Dornoch Distillery (ドーノッホ蒸留所)でモルト・ウィスキーと並行して生産されたジンであり、レシピの異なるバッチが#1~#10まで存在した。
Experimental=体験的の名が示す様に、色々実地に試す為の生産であったと思われる。モルトウィスキーのニューメイクスピリッツが一部使用されていて、その感じもしっかり主張している。この#8・#9は力強さと香りの高さがなかなかのものだった。
この体験を踏まえて作られた同社の Organic Highland Gin だが…、それが実際は少々期待外れだった様に思われる。トンプソン兄弟はドーノッホ蒸留所の傍ら、ボトラーもやっていて樽で買い付けたスコッチウイスキーを独自にボトリングしリリースしている。


スコットランドという事でいえば、Glenfiddich(グレンフィディック)等で有名なWilliam Grant and sons が所有するグレインウィスキー蒸留所がGirvan (ガーヴァン)であるが、その同一敷地内にモルトの Ailsa Bay (アイルサ・ベイ)とクラフトジンの Hendrick's(ヘンドリックス)が存在する。
超巨大なカラムスティルを使いスピリッツの大量生産を行うガーヴァンであり、アイルサベイの規模もモルト蒸留所としては大きいが(註2)、そんな片隅でヘンドリックスはちまちまと手作り的に小規模生産を行うという何しか珍妙ともいえる光景がそこには広がっているのである。


フランスとイタリアから特徴的なクラフトジンを紹介すると…

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左画像=Christian Drouin (クリスチャン・ドゥルーアン)の Le Gin (ル・ジン)
Calvados (カルヴァドス)の名門という事もあり、部分的にでも林檎由来のスピリッツが使われていると見て間違いない。度数は 41度とカルヴァドスに合わせた様に見えるが、味は上品で優しいタイプ。


右画像= Poli (ポリ)の製造する MARCONI 46 (マルコニ46)
名前の通り46度。Veneto (ヴェネト州)にあるこの蒸留所は Grappa (グラッパ=イタリア風粕取りブランデー)で有名。葡萄由来のスピリッツが使われているのは間違いなく、何処かグラッパを想起させる味わいで、パンチがあって主張が強いタイプ。(そこら辺のウィスキーより全然旨かったりする)




クラフトジンの勢いは日本でも同様で、それこそバブルの様に次々と出現して来ている。今やジャパニーズクラフトジンは一大ムーヴメントになった感がある。まぁ、何処まで続くか分らんが

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日本では焼酎や日本酒の歴史があり、九州エリアの生産者を中心に芋焼酎・米焼酎からベースのスピリッツを作る所が多い。他でも日本らしさを売りにするべくライススピリッツを使用する生産者は結構いる。

上段左= ジャパニーズジン和美人武蔵  50%
これは酒類卸販売で有名な武蔵屋(東京)のオリジナル商品でジュニパーを強く効かせているが、バランスは良い。ベースはライススピリッツ(米焼酎)とされ、実際の製造者は本坊酒造(津貫蒸留所)。中身だが、50%という度数もあまり気にならない位の結構な充実度で、販売も当初の計画より延長されている。


上段右=KOMASA GIN KOMIKAN 45%
鹿児島の小正酒造が米焼酎から作り上げるクラフトジンで、これは桜島小ミカンをフィーチャーした物。他には鹿児島産ほうじ茶をフィーチャーしたエディション「ほうじ茶」もある


下段左画像=北海道自由ウイスキー紅櫻蒸留所の 9148・レシピ#101 45%
この9148ではレシピを変えて複数のヴァージョンを作っているが、この#101では干し椎茸・日高昆布・切干大根を含む14種のボタニカルを使用し、ジュニパーも強めにしたとの事。
この 9148 の名の由来はディストピア小説「1984」(書かれたのは1948年)である。この小説は自由の無い管理社会を描いたものだが、作品中ではヴィクトリーという名の不味いジンが度々登場すると共に、自由な時代の美味しいジンを懐かしむシーンが描かれる。
自由な発想、自由な価値観、多くの人が幸せに酒を酌み交わせる自由な世界をというコンセプトの許、1984 の 19 と 84 をひっくり返して 9148 という名をこのジンに付けたという事らしい。


下段右画像=京都蒸留所・季の美 45%
2014年に設立され、2016年秋に販売開始となった日本初のクラフトジンとして有名。
各フレーヴァーの押出しは強くなく繊細系。非常に上質なライススピリッツを使用していて、それが世界的な評判に一役買っている。最近ではいちびって色々な限定エディションまでリリースして来る。
基本的に使用されるボタニカルは11種類で、6つのカテゴリーに別けて蒸留する製法。
2月に行われた Icons of Gin 2019では Craft Producer of the Year を日本勢として初受賞したこの蒸留所だが、運営会社は (株) Number One Drinks なので実質は(株)ウイスク・イーの関連会社。
(当サイトのPC 版にはウイスク・イーへのリンクがある)


ワインの場合、使用品種・畑の位置・熟成期間の他にも様々な規制が掛けられている所が多く、それらをクリアしても官能検査で落とされて産地名称を外されるなんて事もざらである。そんなワインばかり追い掛けてる御仁達には、ジンという酒の持つほぼほぼ何でもあり的な自由さは理解不能かも知れない。




註1)第2次大戦後のベルリン復興計画に携ったイギリス軍人の 1人だった Montgomery Collins という人物が退役後にドイツに移住し、民宿経営の傍ら独自のレシピでジンを製造していた。彼の死後、21世紀に入りそのレシピとボトルが発見されて話題になると、それにインスパイアされた Alex Stein と Christophe Keller の 2人がジンを開発製造した。
MONKEY の名の由来は件の復興計画当時ベルリン動物園にいた Max という名のオナガザル
註2)2007年に創業したモルトウィスキーの蒸留所で、エタノールベース計算で1200万リットルの年間生産量を誇り、スティルは 8対の 16基。モルトとしてリリースされるのは生産量の 4%程度とされる。



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