最近、(Isle of)Arran の評価が高くなっている様である。この蒸留所は「クラフトディスティラリー」と呼ばれる、資本も規模も小さく、何処の大手資本系列にも属さない独立蒸留所の一つである。 Arran は1995年にその名の通りアラン島で創業、今年で丁度20周年という事になる。
今でこそ蒸留所の新規開業や拡張が相次いでいるが、1995年と云えば、スコッチウィスキー業界は80年代の不振から抜け出せたとは言えず、閉鎖や休眠に追い込まれる蒸留所も出ていた頃である。
そんな時代に産声を挙げたこの蒸留所、勝算もなく始めた訳でもなかろうが、今迄順調な歩みを重ねてクラフトディスティラリーの優等生的な地位まで来たと言って良いかも知れない。 この蒸留所の酒だが、これまで小生にとってはあまり印象に残っていなかった。
出会いは、今から10年近く前に京都は木屋町二条のあるバーだった様に記憶している。
その時出ていたボトルは一桁年数の非常に若い物しかない状態で、(稼働して10年だから仕方ないが…)酒質自体悪くは無いが小生の好みとは言えなかった。イベント等でも頻繁にブースが出るなど触れる機会は多かったが、こちらから積極的に手を出した記憶はない。 最近では12~15年程度のアイテムは比較的見掛ける機会が多い様で、それだけ年月が経ってきたのだという事でもある。
またここ最近はオフィシャルボトルで限定品がそこそこの頻度で出ていて、最近ありがちな気違いじみた価格ではなく、まだ現実的な価格で提供されている事が多い。
去る11月12日夜、Arran 蒸留所の20周年記念パーティーで行われたので小生も足を運んだ。参加費は2000円、事前のオンライン決済で予約したが、100枚のチケット(多分一般販売分)は事前に完売で、当日券は出なかったという。今、好調と言われるこの蒸留所だが、これが本当なのかを確かめ、少々停滞気味の酒活にも少し喝を入れるという意味も込めて参加したのであった。
少々遅刻は仕方ないかと会場に向かったのだが、新橋駅から歩いて行った。10分程度の遅刻で行けるかと思ったが、新橋~汐留の地下道が判り難い。地下道で迷子になって挙句の果てに、パークホテルではなく、ロイヤルパークホテルに出てしまうという大失態!又地下道に戻り、漸くパークホテルに辿り着いたは良いが、このミスで15分以上ロスしたのは想定外だった。
左は初期のスタンダード品 現在の10年・46%が出る前の物で、度数も43%という事もあり、若いものの基本的に穏やか。
右は12年のcask strength=度数調整無し、52.9%オフィシャルボトルで10~12年程度のカスクというものは少し増えてきたような気がする。その中でもコイツはかなりイイ、この蒸留所はそれなりに丁寧に作ってはいるというのが伝わってくる。
ここから、この日出ていたスペシャルなアイテムから3点だけ紹介する
上段左=Angel's Reserve 18yo 1996 51.1%
1996年蒸溜のオロロソシェリー(Oroloso Sherry)カスクの中から、所謂エンジェルズ・シェアが多い(目減りが早い)物を複数抜き出し、カスクストレンクスで瓶詰した限定商品。価格は14000円前後で現在の相場からすると比較的リーズナブルだった事もあり、僅かな期間で売り切れて今は入手不能。
優れた樽を選んで上手に纏めたと思われるなかなかの逸品。シェリーカスクが好きな人間であれば、充分に楽しめる。何故発売直後に手を付けなかったのかと反省する小生だが、後悔先に立たずとはこの事。樽がきついと感じる人もいるかも知れないが、第一にはArran というモルトがどうのこうのというより、シェリーカスクのモルトの良さを思いっきり堪能させてくれる一本。
上段右=Isle of Arran Illicit stills 56.4%
バーボン、シェリー、ポートの樽から選んだ原酒をブレンドした物で、カスクストレンクスで瓶詰。背後にあるのはコイツのケースで、薄い板を張り合わせて辞書の様に仕立てた感じに見える。こんなゴツイ箱なんぞ要らんのだが…
バーボン樽の比率が高いと思われ、シェリーやポートの影響は濃くない。ピート香が感じられるので、ピート焚きの原酒を使った可能性が高い。
総体的に香り、ボディ共々華やかで、バランスも良く非常に楽しめる。販売見込み価格は13000円前後なので、酒としての内容及び今の相場を考えると決して高いとは言えない。
が、しかし…、香味の開きが早いと思われ、開栓した後崩れるのが早いという恐れもある。
下段=The Bothy quarter cask batch 1 55.7% 12000 bottles
年数の異なる複数のバーボン樽から選んだ原酒を集め、アメリカンオークのクオーターカスクで18ヶ月追熟して度数調整無しで瓶詰。(註1) 無理矢理樽の影響を強くしているので、強引に作った様な不自然な部分が有るかと心配されたが、この部分は杞憂に終わった。スパイシーな所とフルーティーな部分のバランスは悪くなく、変な諄さもない。
既に海外では結構な高評価を得ている様である。 これも新商品だが、batch 1 と謳う所を見ると、これから年数回のペースでbatch 2,3,4…という具合にリリースするのではないか?
Arran 自体、あまり目立った感じの無い酒質であるが、樽さえ上手く選べれば非常に優良な酒に仕上げる事も十分に可能である。 最近のスコッチ業界は兎に角強気一辺倒、世界的な需要拡大を背景に増産ラッシュだが、同時に価格も高騰しまくり。生産者のみならず、インポーター等の中間業者もここぞと価格を釣り上げ、更には資金力のある一部のバー等が買占めを行うケースも多発して「火にガソリンどころか爆薬まで注ぎまくる」次第である。
その一方この状況下で、手を引く愛好家も増えている。小生もモルトへの興味が薄れてきている。 操業から20年、大手のコングロマリットという牛後(ぎゅうご)に入らず、地道に鶏口(けいこう)として歩んできたこの蒸留所が改めて評価されスポットを浴びるのは大変良い事と思われる。
スコッチの現状に辟易とさせられ過ぎている我々愛好家としても、暗闇に一筋の光を見た様な感じである。 Islay 島のBruichladdich(ブリックラディ)は、2000年にJim MacEwan(ジム・マキュワン)の手で復活して以来、こちらも「鶏口」であり続けたが、2013年に力尽き(?)、Rémy Cointreau(レミー・コアントロー) に身売りして「牛後」になる道を選んでしまった。(註2) さて、この先、Arran を待ち受ける運命は如何に。
大規模生産のブレンディドウィスキー全盛だった80年代までと違い、今はスモールバッチで次々と商品をリリースして行く商法での生き残りが可能となった。
このパラダイムの中でなら小規模蒸留所にもチャンスがそれなりにはある。世界を見ればスコットランド以外でも小規模蒸留所が次々に産声を挙げている。日本国内では来年初頭にも茨城県那珂市の木内酒造がウィスキー生産を開始する。
※ この記事は旧ブログからの移転記事につき、旧ブログにてアップされた時点(Nov. 2015)での事実関係に基いて書かれているので、現在の事実関係とは大きく異なる場合があっても何卒ご了承賜りたい。
(註1)樽が通常のサイズの1/4という事でクオーターカスクとなるが、「通常」とはこの場合シェリーバット等の500Lなので、1/4は125Lとなる。バレル(200L)やホッグスヘッド(250L)の1/4だとoctave(オクタヴ)
非常に小さい樽で熟成を掛けると樽との接触面積が(酒の量に比して)多くなる事で、樽の影響が短期間で強まり、これと同時に熟成を促進させるのと同じ効果があるとされる。
(註2)J. MacEwan はBruichladdich 蒸留所とMarray and McDavid というボトラーも経営していたが、資金繰りが悪化して負債が1200万ポンドを超えたと言われている。
Rémy Martin は1991年にCointreau と共にRémy Cointreau を結成し、Mount Gay、Metaxa、 Passoa 等を傘下に収めている。
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今でこそ蒸留所の新規開業や拡張が相次いでいるが、1995年と云えば、スコッチウィスキー業界は80年代の不振から抜け出せたとは言えず、閉鎖や休眠に追い込まれる蒸留所も出ていた頃である。
そんな時代に産声を挙げたこの蒸留所、勝算もなく始めた訳でもなかろうが、今迄順調な歩みを重ねてクラフトディスティラリーの優等生的な地位まで来たと言って良いかも知れない。 この蒸留所の酒だが、これまで小生にとってはあまり印象に残っていなかった。
出会いは、今から10年近く前に京都は木屋町二条のあるバーだった様に記憶している。
その時出ていたボトルは一桁年数の非常に若い物しかない状態で、(稼働して10年だから仕方ないが…)酒質自体悪くは無いが小生の好みとは言えなかった。イベント等でも頻繁にブースが出るなど触れる機会は多かったが、こちらから積極的に手を出した記憶はない。 最近では12~15年程度のアイテムは比較的見掛ける機会が多い様で、それだけ年月が経ってきたのだという事でもある。
またここ最近はオフィシャルボトルで限定品がそこそこの頻度で出ていて、最近ありがちな気違いじみた価格ではなく、まだ現実的な価格で提供されている事が多い。
去る11月12日夜、Arran 蒸留所の20周年記念パーティーで行われたので小生も足を運んだ。参加費は2000円、事前のオンライン決済で予約したが、100枚のチケット(多分一般販売分)は事前に完売で、当日券は出なかったという。今、好調と言われるこの蒸留所だが、これが本当なのかを確かめ、少々停滞気味の酒活にも少し喝を入れるという意味も込めて参加したのであった。
少々遅刻は仕方ないかと会場に向かったのだが、新橋駅から歩いて行った。10分程度の遅刻で行けるかと思ったが、新橋~汐留の地下道が判り難い。地下道で迷子になって挙句の果てに、パークホテルではなく、ロイヤルパークホテルに出てしまうという大失態!又地下道に戻り、漸くパークホテルに辿り着いたは良いが、このミスで15分以上ロスしたのは想定外だった。
左は初期のスタンダード品 現在の10年・46%が出る前の物で、度数も43%という事もあり、若いものの基本的に穏やか。
右は12年のcask strength=度数調整無し、52.9%オフィシャルボトルで10~12年程度のカスクというものは少し増えてきたような気がする。その中でもコイツはかなりイイ、この蒸留所はそれなりに丁寧に作ってはいるというのが伝わってくる。
ここから、この日出ていたスペシャルなアイテムから3点だけ紹介する
上段左=Angel's Reserve 18yo 1996 51.1%
1996年蒸溜のオロロソシェリー(Oroloso Sherry)カスクの中から、所謂エンジェルズ・シェアが多い(目減りが早い)物を複数抜き出し、カスクストレンクスで瓶詰した限定商品。価格は14000円前後で現在の相場からすると比較的リーズナブルだった事もあり、僅かな期間で売り切れて今は入手不能。
優れた樽を選んで上手に纏めたと思われるなかなかの逸品。シェリーカスクが好きな人間であれば、充分に楽しめる。何故発売直後に手を付けなかったのかと反省する小生だが、後悔先に立たずとはこの事。樽がきついと感じる人もいるかも知れないが、第一にはArran というモルトがどうのこうのというより、シェリーカスクのモルトの良さを思いっきり堪能させてくれる一本。
上段右=Isle of Arran Illicit stills 56.4%
バーボン、シェリー、ポートの樽から選んだ原酒をブレンドした物で、カスクストレンクスで瓶詰。背後にあるのはコイツのケースで、薄い板を張り合わせて辞書の様に仕立てた感じに見える。こんなゴツイ箱なんぞ要らんのだが…
バーボン樽の比率が高いと思われ、シェリーやポートの影響は濃くない。ピート香が感じられるので、ピート焚きの原酒を使った可能性が高い。
総体的に香り、ボディ共々華やかで、バランスも良く非常に楽しめる。販売見込み価格は13000円前後なので、酒としての内容及び今の相場を考えると決して高いとは言えない。
が、しかし…、香味の開きが早いと思われ、開栓した後崩れるのが早いという恐れもある。
下段=The Bothy quarter cask batch 1 55.7% 12000 bottles
年数の異なる複数のバーボン樽から選んだ原酒を集め、アメリカンオークのクオーターカスクで18ヶ月追熟して度数調整無しで瓶詰。(註1) 無理矢理樽の影響を強くしているので、強引に作った様な不自然な部分が有るかと心配されたが、この部分は杞憂に終わった。スパイシーな所とフルーティーな部分のバランスは悪くなく、変な諄さもない。
既に海外では結構な高評価を得ている様である。 これも新商品だが、batch 1 と謳う所を見ると、これから年数回のペースでbatch 2,3,4…という具合にリリースするのではないか?
Arran 自体、あまり目立った感じの無い酒質であるが、樽さえ上手く選べれば非常に優良な酒に仕上げる事も十分に可能である。 最近のスコッチ業界は兎に角強気一辺倒、世界的な需要拡大を背景に増産ラッシュだが、同時に価格も高騰しまくり。生産者のみならず、インポーター等の中間業者もここぞと価格を釣り上げ、更には資金力のある一部のバー等が買占めを行うケースも多発して「火にガソリンどころか爆薬まで注ぎまくる」次第である。
その一方この状況下で、手を引く愛好家も増えている。小生もモルトへの興味が薄れてきている。 操業から20年、大手のコングロマリットという牛後(ぎゅうご)に入らず、地道に鶏口(けいこう)として歩んできたこの蒸留所が改めて評価されスポットを浴びるのは大変良い事と思われる。
スコッチの現状に辟易とさせられ過ぎている我々愛好家としても、暗闇に一筋の光を見た様な感じである。 Islay 島のBruichladdich(ブリックラディ)は、2000年にJim MacEwan(ジム・マキュワン)の手で復活して以来、こちらも「鶏口」であり続けたが、2013年に力尽き(?)、Rémy Cointreau(レミー・コアントロー) に身売りして「牛後」になる道を選んでしまった。(註2) さて、この先、Arran を待ち受ける運命は如何に。
大規模生産のブレンディドウィスキー全盛だった80年代までと違い、今はスモールバッチで次々と商品をリリースして行く商法での生き残りが可能となった。
このパラダイムの中でなら小規模蒸留所にもチャンスがそれなりにはある。世界を見ればスコットランド以外でも小規模蒸留所が次々に産声を挙げている。日本国内では来年初頭にも茨城県那珂市の木内酒造がウィスキー生産を開始する。
※ この記事は旧ブログからの移転記事につき、旧ブログにてアップされた時点(Nov. 2015)での事実関係に基いて書かれているので、現在の事実関係とは大きく異なる場合があっても何卒ご了承賜りたい。
(註1)樽が通常のサイズの1/4という事でクオーターカスクとなるが、「通常」とはこの場合シェリーバット等の500Lなので、1/4は125Lとなる。バレル(200L)やホッグスヘッド(250L)の1/4だとoctave(オクタヴ)
非常に小さい樽で熟成を掛けると樽との接触面積が(酒の量に比して)多くなる事で、樽の影響が短期間で強まり、これと同時に熟成を促進させるのと同じ効果があるとされる。
(註2)J. MacEwan はBruichladdich 蒸留所とMarray and McDavid というボトラーも経営していたが、資金繰りが悪化して負債が1200万ポンドを超えたと言われている。
Rémy Martin は1991年にCointreau と共にRémy Cointreau を結成し、Mount Gay、Metaxa、 Passoa 等を傘下に収めている。
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