アンダルシア(Andalucía)のワインは酒精強化ワインもしくはそれに類するものが多いと述べたが、へレス(シェリー)とモンティーヤ・モリレスでは作り方が同じ様でいて異なる部分もある。
基本的にソレラシステムでの熟成を施すところは一緒。数十樽を3~5段に積み上げて、新しい原酒を一番上の段に注入し、熟成が進む毎に下の段の樽に送って行く。一番下の段の樽から汲み出した酒がボトリングされる。各々の樽の中の酒の量は容量の2/3程度になる様調整される。腐敗防止の為に樽の表面を黒く塗るのもほぼ一緒。
葡萄品種はへレスの場合大部分がパロミノ種である。ペトロヒメネス(Pedro Ximénez =以下PX とする)は主に甘口用の補助的な物に過ぎない。これがモンティーヤ・モリレスでは殆どが PX である。PX でフィノ・アモンティヤード・オロロソ、PX 等々悉くこの品種で作られる。
へレスでは Fino を始めとしてほぼ全てで酒精強化を行う。これに対してモンティーヤでは Fino と Amontillado については酒精強化を行わなず、Oloroso とPX についてのみこれを行う。
オロロソは最初から酸化熟成を施す物であり、PX は葡萄を天日干しした後に発酵させる途中でブランデー添加により発酵を止めて多くの糖分を残すからフォーティファイしなければならない。
PX という品種は糖度が高いので、完全発酵すればフィノの標準的アルコール度数の15%にほぼ達してしまう。Montilla - Moriles ではフィノで抑々フォーティファイの必要が無いといえる。あとは樽の中でフロールを張らせて熟成すれば完成するのである。
Montilla - Moriles の傑作選として先ずはこの2点を御紹介
左=Bodegas Moreno (ボデガス・モレノ)の Amontillado Viejo CABRIOLA (アモンティヤード・ヴィエホ・カブリオラ)
あの Tio Pepe でお馴染みのへレスの名門 Gonzalez Byass (ゴンサレス・ビアス)が昔所有していたボデガが引き継がれ1957年にモンティーヤに移って来たという事。このワインはそこの最上級でまさに超フラッグシップと呼べる逸品だが、何せ入手困難の極みにしてほぼ幻のワイン。熟成期間は恐らく30年近辺と思われ、リリースされた数も極めて少ないと考えられる。
小生は数年前に輸入されたと思われるボトルを先日何とかゲットしたが、ここ数年で価格が高騰した模様。度数は20%
右=Tauromaquia Amontillado (タウロマキア・アモンティヤード)
Perez Barquero (ペレス・バルケロ)が作り出す逸品、こちらも入手が結構難しい
熟成は12年程度、度数は19度
前段ではまだこの産地ではAmontilladoが酒精強化をしない事にはしっかり触れていなかったが、フィノの発展形ともいえるのがアモンティヤードである。フィノのフロールは抑々10~12年程度が限界であるからその先は酸化熟成に移行せざるを得ない。その際の腐敗防止策としてへレスではここでブランデーの再添加を行い18%位までアルコールを上げるケースが多いが、モンティーヤという所は内陸で大西洋に面したヘレスと比べても非常に乾燥している。水分の減少が起こり易く、結果的にアルコール度数が17~20%というレベルに上がってそのまま酸化熟成に入れるという事らしい。
アルコールが半分以上を占めるハードリカーの熟成では殆ど起らない様な現象だが、樽に入っているワインは元々15度程度でアルコールの揮発が起こり易い状況ではないと考えられ、モンティーヤのソレラでは水分の減少スピードがアルコールのそれを上回るという事象が普通に起きるのであろう。
Montilla - Moriles のワインを見て行くと、フィノ・オロロソ・PX でも素晴らしく印象的なボトルは多いが、特に蔵のエース的な存在は圧倒的にアモンティヤードである様に思われる。アモンティヤードが圧倒無双しているといっても良いかも知れない。これは Jerez (=シェリー)にはない傾向である。
そのヒントは Montilla の名前にある。Amontillado の文字は A-montilla-do とバラす事が出来る。つまり Amontillado はモンティーヤ式という意味なのである。フロール熟成が終ってから酸化熟成に移行する(ほぼ真逆の形の熟成に移行するという一種の離れ業ともいえる)、それがモンティーヤ式と表されるのであろう。
Bodegas Robles (ボデガス・ロブレス)もモンティーヤでは有名な所で、創業は1927年。3代目に継承された1990年代からはオーガニック栽培に取り組んでいる。
画像の2本はそのラインナップ中でも特殊な存在=日本向け商品で、日本を中心としたアジア文化への理解を深めるというコンセプトがあるらしい。因みに味わいは総体的にかなり控えめである。
左=Bajosol 0/0(バホソル 0/0)は甘口で他でいうペトロヒメネスに当るが、これは樽熟成していない。
右=Bajoflor Oloroso 0/6 (バホフロール・オロロソ 0/6)オロロソでも6年程度の酸化熟成と短めである。この Bajoflor には Fino 2/0(2年熟成フィノ)・Fino 4/0 (4年熟成フィノ)・Amontillado 5/3 (フロール下で5年+3年酸化熟成アモンティヤード)もある。
数字の読み方は恐らくフロール下熟成年数と酸化熟成年数を意味しているのであろう。
左画像=Cruz Conde Oloroso Mercedes(クルス・コンデ・オロロソ・メルセデス)16%
1902年に Rafael Cruz Conde によって創業した、こちらも Montilla - Moriles ではメジャーな存在。ワインのみならず、ブランデー、ラム、ジンその他諸々と幅広くリリースしている。ボデガの見学ツアーも積極的に受け入れている。
右画像=Taberner 2014 Vino Tinto de la Tierra de Cádiz Huerta de Alvalá
Syrah 種100%で作られる赤ワインでフレンチオーク(アリエ産)の樽で18ヶ月熟成。因みに度数は15.5%という事になっているがこれは少々嘘くさい。
生産地は Cádiz(カディス)と書いてあるが、Vino de la Tierra と付いているのでフランスでいうVin de Pays (ヴァン・ドゥ・ペ)と同じ様な位置付けで、かなり広範囲にカヴァーする名称である。
ボトルの背後にアメリカの前大統領が写り込んでいたり、何しか色々能書きが書かれている様に見えるが、小生にとってそんなのはどうでもよい。ネットで調べると何やら評価も高いように見えるが、小生の眼は誤魔化せない。簡単に言えばクソワインとまでは云わないが、かなり残念なワイン。諄くて甘ったるさも感じさせ、何処かのっぺりとしている。酸が無さ過ぎて草すら生えない。
先月の展示会で見かけたワイン以外の物としては…
スペイン名産品といえば、先ず出て来る生ハム。アンダルシアはその中でも本場 of 本場!
画像にある Jamón Serano reserva (ハモンセラーノレゼルヴァ)は一般的な白豚から作られる。これに対しあの有難がられる Jamón Ibérico (ハモン・イベリコ)はイベリコ種黒豚から作られる。
いずれにせよ、生産地はアンダルシア及びカスティージャ(Castilla)地方の山間部に集中している。
The Best Extra Virgin Olive Oil という触れ込みで最高品質本物のオリーヴオイルを名乗るPagos de Toral (パゴス・デ・トラル)、250mlで何と3500円
夜の内に収穫し4時間以内に絞る、添加物はゼロで酸度は0.08~0.10。14㎏のオリーヴから 1リットルしか採れないという。(通常はオリーヴ 5㎏から 1リットル)オイルではあるが紛れもなくオリーブジュースであるとの事。取扱は仙台市にあるその名も、スペインオリーブジュースという業者(ストレート過ぎて草)
アンダルシア自体が何と言っても観光地として、又オリーヴや生ハムの産地としてもメジャーである。一方でワインの産地としてはマイナーである。しかも草生えるレベルでマイナーかも知れない。この地方の十八番ともいえる酒精強化タイプは現代のマーケットではウケが良くない様で、Condado de Huelva(コンダド・デ・ウエルヴァ)ではライトな辛口白ワインにシフトしていて、従来の酒精強化ワインは日本には先ず入ってこない。
Montilla - Moriles に於けるワイン造りの歴史は紀元前8世紀まで遡るとされ、此処で培われたメソッドがヘレス・マラガでも使われて行ったという歴史がある。そして「パクリ」に当る 2地域の方がマーケットでは成功を収める形となり、モンティーヤはその陰で極めてマイナーな地位を甘受する破目になってしまった。Montilla - Moriles の特徴を作り上げているPX という葡萄が、同時に弱点にもなってしまうとも言える。この品種は収量を上げる事が出来ないのである。生産量が稼げないから大きく売り出すのも難しいとなるとメジャーには成れない。
マイナーでも良い、逞しく格調高くブレずに生き続けて愛好家を楽しませて欲しい! メジャーになれば良いというものではない! 物の解る人は解るのである。
関連記事=そうだ、Sherry を飲むべし! Part 1 Part 2 Part 3
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基本的にソレラシステムでの熟成を施すところは一緒。数十樽を3~5段に積み上げて、新しい原酒を一番上の段に注入し、熟成が進む毎に下の段の樽に送って行く。一番下の段の樽から汲み出した酒がボトリングされる。各々の樽の中の酒の量は容量の2/3程度になる様調整される。腐敗防止の為に樽の表面を黒く塗るのもほぼ一緒。
葡萄品種はへレスの場合大部分がパロミノ種である。ペトロヒメネス(Pedro Ximénez =以下PX とする)は主に甘口用の補助的な物に過ぎない。これがモンティーヤ・モリレスでは殆どが PX である。PX でフィノ・アモンティヤード・オロロソ、PX 等々悉くこの品種で作られる。
へレスでは Fino を始めとしてほぼ全てで酒精強化を行う。これに対してモンティーヤでは Fino と Amontillado については酒精強化を行わなず、Oloroso とPX についてのみこれを行う。
オロロソは最初から酸化熟成を施す物であり、PX は葡萄を天日干しした後に発酵させる途中でブランデー添加により発酵を止めて多くの糖分を残すからフォーティファイしなければならない。
PX という品種は糖度が高いので、完全発酵すればフィノの標準的アルコール度数の15%にほぼ達してしまう。Montilla - Moriles ではフィノで抑々フォーティファイの必要が無いといえる。あとは樽の中でフロールを張らせて熟成すれば完成するのである。
Montilla - Moriles の傑作選として先ずはこの2点を御紹介
左=Bodegas Moreno (ボデガス・モレノ)の Amontillado Viejo CABRIOLA (アモンティヤード・ヴィエホ・カブリオラ)
あの Tio Pepe でお馴染みのへレスの名門 Gonzalez Byass (ゴンサレス・ビアス)が昔所有していたボデガが引き継がれ1957年にモンティーヤに移って来たという事。このワインはそこの最上級でまさに超フラッグシップと呼べる逸品だが、何せ入手困難の極みにしてほぼ幻のワイン。熟成期間は恐らく30年近辺と思われ、リリースされた数も極めて少ないと考えられる。
小生は数年前に輸入されたと思われるボトルを先日何とかゲットしたが、ここ数年で価格が高騰した模様。度数は20%
右=Tauromaquia Amontillado (タウロマキア・アモンティヤード)
Perez Barquero (ペレス・バルケロ)が作り出す逸品、こちらも入手が結構難しい
熟成は12年程度、度数は19度
前段ではまだこの産地ではAmontilladoが酒精強化をしない事にはしっかり触れていなかったが、フィノの発展形ともいえるのがアモンティヤードである。フィノのフロールは抑々10~12年程度が限界であるからその先は酸化熟成に移行せざるを得ない。その際の腐敗防止策としてへレスではここでブランデーの再添加を行い18%位までアルコールを上げるケースが多いが、モンティーヤという所は内陸で大西洋に面したヘレスと比べても非常に乾燥している。水分の減少が起こり易く、結果的にアルコール度数が17~20%というレベルに上がってそのまま酸化熟成に入れるという事らしい。
アルコールが半分以上を占めるハードリカーの熟成では殆ど起らない様な現象だが、樽に入っているワインは元々15度程度でアルコールの揮発が起こり易い状況ではないと考えられ、モンティーヤのソレラでは水分の減少スピードがアルコールのそれを上回るという事象が普通に起きるのであろう。
Montilla - Moriles のワインを見て行くと、フィノ・オロロソ・PX でも素晴らしく印象的なボトルは多いが、特に蔵のエース的な存在は圧倒的にアモンティヤードである様に思われる。アモンティヤードが圧倒無双しているといっても良いかも知れない。これは Jerez (=シェリー)にはない傾向である。
そのヒントは Montilla の名前にある。Amontillado の文字は A-montilla-do とバラす事が出来る。つまり Amontillado はモンティーヤ式という意味なのである。フロール熟成が終ってから酸化熟成に移行する(ほぼ真逆の形の熟成に移行するという一種の離れ業ともいえる)、それがモンティーヤ式と表されるのであろう。
Bodegas Robles (ボデガス・ロブレス)もモンティーヤでは有名な所で、創業は1927年。3代目に継承された1990年代からはオーガニック栽培に取り組んでいる。
画像の2本はそのラインナップ中でも特殊な存在=日本向け商品で、日本を中心としたアジア文化への理解を深めるというコンセプトがあるらしい。因みに味わいは総体的にかなり控えめである。
左=Bajosol 0/0(バホソル 0/0)は甘口で他でいうペトロヒメネスに当るが、これは樽熟成していない。
右=Bajoflor Oloroso 0/6 (バホフロール・オロロソ 0/6)オロロソでも6年程度の酸化熟成と短めである。この Bajoflor には Fino 2/0(2年熟成フィノ)・Fino 4/0 (4年熟成フィノ)・Amontillado 5/3 (フロール下で5年+3年酸化熟成アモンティヤード)もある。
数字の読み方は恐らくフロール下熟成年数と酸化熟成年数を意味しているのであろう。
左画像=Cruz Conde Oloroso Mercedes(クルス・コンデ・オロロソ・メルセデス)16%
1902年に Rafael Cruz Conde によって創業した、こちらも Montilla - Moriles ではメジャーな存在。ワインのみならず、ブランデー、ラム、ジンその他諸々と幅広くリリースしている。ボデガの見学ツアーも積極的に受け入れている。
右画像=Taberner 2014 Vino Tinto de la Tierra de Cádiz Huerta de Alvalá
Syrah 種100%で作られる赤ワインでフレンチオーク(アリエ産)の樽で18ヶ月熟成。因みに度数は15.5%という事になっているがこれは少々嘘くさい。
生産地は Cádiz(カディス)と書いてあるが、Vino de la Tierra と付いているのでフランスでいうVin de Pays (ヴァン・ドゥ・ペ)と同じ様な位置付けで、かなり広範囲にカヴァーする名称である。
ボトルの背後にアメリカの前大統領が写り込んでいたり、何しか色々能書きが書かれている様に見えるが、小生にとってそんなのはどうでもよい。ネットで調べると何やら評価も高いように見えるが、小生の眼は誤魔化せない。簡単に言えばクソワインとまでは云わないが、かなり残念なワイン。諄くて甘ったるさも感じさせ、何処かのっぺりとしている。酸が無さ過ぎて草すら生えない。
先月の展示会で見かけたワイン以外の物としては…
スペイン名産品といえば、先ず出て来る生ハム。アンダルシアはその中でも本場 of 本場!
画像にある Jamón Serano reserva (ハモンセラーノレゼルヴァ)は一般的な白豚から作られる。これに対しあの有難がられる Jamón Ibérico (ハモン・イベリコ)はイベリコ種黒豚から作られる。
いずれにせよ、生産地はアンダルシア及びカスティージャ(Castilla)地方の山間部に集中している。
The Best Extra Virgin Olive Oil という触れ込みで最高品質本物のオリーヴオイルを名乗るPagos de Toral (パゴス・デ・トラル)、250mlで何と3500円
夜の内に収穫し4時間以内に絞る、添加物はゼロで酸度は0.08~0.10。14㎏のオリーヴから 1リットルしか採れないという。(通常はオリーヴ 5㎏から 1リットル)オイルではあるが紛れもなくオリーブジュースであるとの事。取扱は仙台市にあるその名も、スペインオリーブジュースという業者(ストレート過ぎて草)
アンダルシア自体が何と言っても観光地として、又オリーヴや生ハムの産地としてもメジャーである。一方でワインの産地としてはマイナーである。しかも草生えるレベルでマイナーかも知れない。この地方の十八番ともいえる酒精強化タイプは現代のマーケットではウケが良くない様で、Condado de Huelva(コンダド・デ・ウエルヴァ)ではライトな辛口白ワインにシフトしていて、従来の酒精強化ワインは日本には先ず入ってこない。
Montilla - Moriles に於けるワイン造りの歴史は紀元前8世紀まで遡るとされ、此処で培われたメソッドがヘレス・マラガでも使われて行ったという歴史がある。そして「パクリ」に当る 2地域の方がマーケットでは成功を収める形となり、モンティーヤはその陰で極めてマイナーな地位を甘受する破目になってしまった。Montilla - Moriles の特徴を作り上げているPX という葡萄が、同時に弱点にもなってしまうとも言える。この品種は収量を上げる事が出来ないのである。生産量が稼げないから大きく売り出すのも難しいとなるとメジャーには成れない。
マイナーでも良い、逞しく格調高くブレずに生き続けて愛好家を楽しませて欲しい! メジャーになれば良いというものではない! 物の解る人は解るのである。
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